2007年03月07日 19:37

ジャンル: [起業者の生きかた

高橋淳二

編集者という病い(見城徹 著)

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出版社:太田出版

定価:1,600円+税

発行日:2007年3月

イエスの喩えの中に羊というのが出てきますが、僕は百匹の羊の共同体の中で一匹の過剰な、異常な羊、その共同体から滑り落ちるたった一匹の羊の内面を照らし出すのが表現だというふうに思っています。

(P.18より引用)

出版社『幻冬舎』の社長、見城徹氏が、雑誌などで発してきた言葉が1冊の本となった。現役であるうちは本を出さないと決めていたにもかかわらず、敢えてその禁を破ったという。それは、編集者としての長い旅を生きてきて、「死」に対してのセンチメンタルな想念に胸を鷲づかみされるようになったからだ、と序章には書いてある。

だからこそ、この本の出版にあたり、見城氏と「よじれあうように生きて」きた高瀬幸途氏に持ちかけたのだ、と。高瀬氏はこの本を最後に、編集者を辞めるばかりでなく、太田出版社長の座も退くのだそうだ。2人の編集者にとっての総決算の本となっているのだ。

だってこっちは、『お前の一番見せたくない傷や膿を出せ』っていう訳で……。関係性や存在感において、あぁこの人がここまで体重をかけて俺に関係してくるんだったら、俺も出さざるを得ないと思って初めて作品が成立するわけだから。

(P.171より引用)

本文の中では、見城氏が切り結び、本を編集してきた人物たちとのことが語られていく。石原慎太郎、中上健次、村上龍、坂本龍一、松任谷由実……なかでも本の冒頭で語られる、常に「人生のすべてを問うようなぎりぎりの踏み絵」を踏ませようとしたという尾崎豊との時間は衝撃的だった。

本の後半においては、見城氏の編集者の道のりや、本を売ることに関しての思想が綴られている。雑誌『Free & Easy』の特集記事、ノンフィクション作家・小松成美さんによるインタビュー記事など、文章が語り言葉中心のため、とても読みやすい。特に、171ページの引用箇所を始めとする『F& E』特集<凶暴に生きてみませんか>の中に散在している言葉たちが深く心に残った。

『天使のようにしたたかに、悪魔のように繊細に』。そこで初めてとてつもなく豊かなグレイになれる。

(P.191より引用)

この本に出てくる言葉は、すべてが本質的だ。もちろん「三人の大家ときらめいている新人3人を押さえろ」などの“格言”も載っているし、「売れるコンテンツが備えている4つの要素」や「不況の出版業界での逆張り勝負の仕方」なども語られているので、仕事の進め方を知る上で大きな参考にはなる。

だが、それ以上に、自分自身の中にある生、病、老、死、性、業、虚無…そういった大きく重い言葉と向き合わざるを得ない1冊なのである。自分自身は、果たしてそれらのテーマと向き合う勇気を持ち合わせているのだろうか。これから先、人生の節目に何度も読む本になるのだろうという気がしている。

Comments

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この記事へのコメント一覧です:

引用されている3つのパラグラフは、いずれも素晴らしいものですね。今後も楽しみにしております。心から。
踏み出した、その一歩に乾杯!


>最初のコメント、ありがとうございました。継続していくことを大事にしてがんばります。今後ともよろしくです。

F (´ー`)y-~~ (2007年03月14日 23:25)

あ、コメントへの返信の方法、分かったんですね(笑

(´ー`)y-~~ (2007年03月18日 16:48)

、「売れるコンテンツが備えている4つの要素」や「不況の出版業界での逆張り勝負の仕方」
この2点気になりました。もう少し詳しく教えていただけますか?

AMITAKO (2007年04月12日 16:55)

Trackbuck

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