2007年05月08日 11:12

ジャンル: [スポーツ・勝負論

高橋淳二

夢を見ない男松坂大輔(吉井妙子著)

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出版社:新潮社

定価:1400円+税

発行日:2007年3月

「マウンドではいつも実験しているんだよね。仮説を立て実験し、結果を求め、それを分析し、将来つかえるかどうか見極める。例えば実験しているものをジグソーパズルに譬えると、これまで百ピースで埋められていたものが、二百ピースになり三百ピースになる。そのコマは年々増えていく。コマが増えていくと埋める作業って難しくなるでしょ。それと同じように、年を追う毎に考えることが増えて、苦しみも増していくんだよね。でも、より細かいコマで埋めた方が完成したときに絵はきれいになる。たぶん、この作業は引退するまで続けていくんだろうなあ……」

(P.10より引用)

いやあ、スミからスミまで面白い本でした。すごい! 「夢」など見てない、すべては成るべくして成っている。松坂大輔という男は、ここまで考えて野球をやり続けてきたのか……と絶句したくなるほどの言葉が並んでいます。もちろんそれは松坂の内なる言葉であったにせよ、著者・吉井妙子氏だからこそ引き出せた言葉であることは間違いありません。

松坂の人生の軌跡が丁寧に描かれています。松坂の言葉。夫人である柴田倫世の言葉。父母の言葉。横浜高校時代のチームメイトの言葉。日本プロ野球選手たちの言葉。甲子園で同じ時を共有した、PL学園の上重(日本テレビアナウンサー)や浜田高校の和田(ソフトバンク)の言葉。彼を取り巻くさまざまな人物へのインタビューを通して得た言葉が、松坂の実像を浮き彫りにしていきます。

「あのさ、これまで色んな人たちとの関わりを話したと思うけど、家族以外で僕が本当に影響を受けた人は二人だよ」…(中略)…驚いたのは、もうひとりの外国人の名前だった。

(P.67より引用)

西武時代の無免許運転謹慎時のすさまじいバッシングや、友人を大切にして自分の健康管理を後回しにする松坂に別れを決意したことなど、夫人である柴田倫世のことも彼女の言葉をまじえて語られています。彼女が松坂大輔にとってなくてはならない存在であったこと、そして一方で彼女もまた等身大の女性であることが実感できます。

上重や和田が口をそろえて「いつまでもこのまま投げ合っていたいと思う」と言わせる松坂の魅力は、本書を読むことで体感できる気がします。また、スコット・ボラス社日本支社代表の佐藤隆俊氏の誠実な行動が、メジャーリーガー松坂大輔の扉を大きく展開させたことにも感銘を受けます。「もうひとりの外国人」のことは、ぜひ本書でご確認ください。

「寒い時はできるだけ、外野フライを打たせるようにする。外野の人たちはボールが来ないと動けないから、寒い日だと守備についている間に筋肉が硬直してしまうことがある。だからなるべく外野フライで動かして、打席に入る前にウォーミングアップをしてもらったほうがいい」

(P.185より引用)

この本を読むことで、レッドソックス松坂の1球1球が何倍にも深みを増していきます。A・ロッドに投げた高めのストレート。それは、解説の与田氏が言うように単に「危ない球」がいってしまったのかもしれません。けれども、松坂は敢えてA・ロッドの得意球を投げ、世界一のバッターをねじ伏せにいったようにも思えてきます。ショートのフリオ・ルーゴがタイムリーエラーをした直後、再びイージーなショートゴロが転がった。それは、松坂が彼に挽回の機会を与えているように見えてくるのです。

この本を読めば、松坂大輔がものすごく謙虚で人の心を溶かす笑顔を持った男であることがわかります。そして、マウンド上では世界唯一の支配者であらんとしていることも。

ううっ、この本の魅力を伝え切れているだろうか……2007年を楽しむために、ぜひ読んでもらいたい1冊です。

Comments

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この記事へのコメント一覧です:

『この本を読むことで、レッドソックス松坂の1球1球が』のところで,これは読まねばなるまい!という思いに駆られ,さっそく予約しますた。近日中に読める予定でつ。

(´ー`)y-~~ (2007年05月09日 00:55)

>>>『この本を読むことで、レッドソックス松坂の1球1球が』のところで,これは読まねばなるまい!という思いに駆られ…

コメントありがとうございます。(´ー`)y-~~さんにぜひとも読んでいただきたく。ではでは、忙しい毎日と思いますががんばって!

高橋淳二 (2007年05月09日 09:10)

「夢は寝ているときにみるもの」とDice-KがTVインタビューに答えているのを見たことがあります。照れ隠しのようですが、大物ぶりを垣間見たと感じました。彼に影響を与えた「もうひとりの外国人」が誰なのか、気になります。

hedge (2007年05月10日 20:42)

>>>hedgeさん、コメントありがとうございます! いやあ、ほんとに松坂のコメントは面白いですよね?。投球術にも通じる言葉の駆け引きですよね。

>彼に影響を与えた「もうひとりの外国人」が誰なのか、気になります
→そうですよね?。ひとりは日本人。この人は開幕前テレビなどでよく取り上げられていたのでご存知かと思います。外国人のほうは僕にとっては意外でした。そしてすっきりしたんです。正解をすごく書きたいのですが、この本の1つのヤマなのでネット上に書き込むのにやや躊躇してしまい…あいまいな表現ですみません。

高橋淳二 (2007年05月11日 09:29)

今日の「完投」で「やっと自分の仕事ができた」といった松坂は、その先のまだまだやるべき仕事が見えているんでしょうね。恐ろしい若者です。

AMITAKO  (2007年05月15日 13:01)

>>>AMITAKOさん、いつもコメントありがとうございます!
本当に恐ろしく楽しみですよね、松坂。たとえ結果が今は伴わなくてもかならずそれを克服してくるという確信が感じられますよね。今年も一緒に野球を楽しみましょう!
ではでは!

高橋淳二 (2007年05月15日 19:44)

無四球1失点での完投。
けど奪三振が5?
試合をみてないので何とも言えませんけど、
奪三振の少なさ(語弊あるかも (^^;)に
逆に新しい試みを感じました!何か試してるのかな?って。
マウンドで・・・マスコミが結果に注目するマウンドでも
彼は実験してるんですね。カッコ良すぎです!

是非読んでみたいと思います(^^)

12thくろ (2007年05月16日 00:51)

>>>12thくろさん、昨日はありがとうございました。久しぶりですごくたのしかったです。
>何か試してるのかな?って。
まさにそんな感じですよね。松坂の投球から目が離せませんね。

高橋淳二 (2007年05月16日 20:33)

読みました! 面白かったです。
唯一残念だったのは、あの「外国人」の魅力がイマイチ伝わってこないというところでしょうか。

(´ー`)y-~~ (2007年06月09日 23:00)

(´ー`)y-~~ さん、コメントありがとうございます! 返信が遅れてたいへん恐縮です。そうですか、読んでくれましたか? たしかに「外国人」の魅力について、もっと知りたいところですよね。しかし、一流は一流を知る、ですね。

高橋淳二 (2007年06月14日 23:56)

お仕事が充実しているようで何よりです。
書き忘れましたが、一番印象に残ったのは、松坂が吉井妙子に向かって「言葉は正確に使いましょうよ」と言ったという下りです。
そうか、すげえなコイツは、と。

(´ー`)y-~~ (2007年06月15日 22:58)

(´ー`)y-~~ さん、コメントありがとうございます。あとがきのところですよね、たしかにすごい。吉井妙子さんにそれをしっかりと指摘できる松坂ってすごいですよね。久しぶりに野球が楽しい感じです。

高橋淳二 (2007年06月16日 08:17)

淳二、がんばってるね!とてもいい刺激を受けました。がんばれ!!

匿名 (2007年09月01日 02:54)

淳二、がんばってるね!とてもいい刺激を受けました。がんばれ!!

匿名 (2007年09月01日 02:54)

読んでくださってどうもありがとうございます。コメントもありがとうございました! また更新をしていきますのでよろしくお願いします。

高橋淳二 (2007年09月03日 10:43)

Trackbuck

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