2007年04月11日 02:27

ジャンル: [ビジネスハウツー

高橋淳二

心を開かせる技術(本橋信宏著)

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出版社:幻冬舎

定価:720円+税

発行日:2007年3月

 普段食べているカレーライスは“辛い”という味が前提としてありますが、私が感じている“辛い”という味覚は果たして他人と同じ感覚なのだろうか、という疑念があるのです。

 この他人との差異は幼い頃からずっと私につきまとう感覚でした。

 だから他人の生活が気になります。

 自分に自信がないものだから、自分の日々に比べて他人の半生はどうなのだろうかと、すりあわせてみたくなるのです。

(P.15より引用)

800人以上のAV女優、50億円の借金プロデューサー、元赤軍派議長に中核派全学連委員長、ホスト王にドラッグ売人に取り立て屋に元ジャニーズ・タレントに財務省エリート官僚に東大教授…さまざまな“異形”から言葉を引き出してきた本橋信宏氏が語る超インタビュー術。

といっても、決して饒舌な男ではない。むしろ口べたで異性とまともに口が聞けなかった青年期。他人の心を開かせるコツ、というものを自分がもっているとしたら、それは自身のコンプレックスから派生したものだ、と本橋氏は書いています。

「だいたいお客が断る理由というのは、たくさんあるようにみえて、実際は5つか6つ、いやもっと絞り込めば3つ程度なんですよ。

 ちょっと高い。いまは必要じゃない。興味がない。

 商品セールスの場合、だいたいこの3つなんです。だったら、この3つに対しての答え方を準備しておけばいい。あとはその応用なんです」

(P.119より引用)

売上トップの一流セールスマンは、誠実そうで、おとなしく、こちらの話をよく聞いてくれるタイプ。人間には自分の話を聞いてもらいたい欲求がある、人間にとって一番つらいのは、自分の存在が無視された時。その人間の本質を踏まえて、本橋氏は対象から話を引き出していくのです。

引き出された言葉はインタビュー記事となり、そして本書にも再録されています。「被害者続出の残酷取り立て王」と見出しされた杉山治夫会長に語らせていく、自身の半生。それにより杉山会長の、大きくて孤独な姿が像を結んでいきます。119ページの引用は、AV界の帝王・村西とおる氏が語った言葉ですが、名言『ナイスですね』を生んだ彼の思考が見えてきます。

 いままでのらりくらりとして乗り気でなかった人間でも、この質問をすると、必ず真摯な態度で答えてくれる、とても重要な内容です。

「あなたにとって一番古い記憶は何ですか?」

(P.139より引用)

緊張感を消す人間の位置関係は「L字型」がいい。たたき上げの人間にはインテリ的なアプローチが効果的。初対面の女性に心を開いてもらうには笑いがポイント。肉体の傷跡にはあえて触れるべき…。数々の体験を経て語られる本橋氏の術は、難解なものではなく、それだけに説得力に満ちています。

AV女優たちの「親バレ」の不安を一気に取り除く村西とおる監督の言葉がけや、名曲『神田川』が生まれた一瞬のようすは、個人的に感動を覚えました。「過去の体験を思い出すとき、視線はどちらを向くか」などの話も多数掲載されていて、聞く側・聞かれる側のどちらもが満足できる内容の1冊です。

Comments

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この記事へのコメント一覧です:

心を開かせる技術よりも股を開かせる技術について書いて欲しかったとも思ったのですが,「異性とまともに口が聞けなかった」著者なんだからそれは無理だろうと気付き,であるならば3パラ評者にそのような技術について是非とも書いて頂き(ry

Σ(・д・;) (2007年04月11日 20:44)

「過去の体験を思い出すとき、視線はどちらを向くか」とはどういう意味ですか?興味があります。

AMITAKO (2007年04月12日 16:05)

「過去の体験を思い出すとき、視線はどちらを向くか」とはどういう意味ですか?興味があります。

>コメント、ありがとうございます。
本書によれば、「目がどこを向くか」というのは、人は記憶を思い起こすときには右利きの人は左上を向くそうです。これはオウムに洗脳された信者を逆洗脳した苫米地英人の論によるものなのですが、行動心理学の本でもそのように書いてあることが多いです。
ちなみにあの本の中に出てくるエピソードとしては、ジョンベネちゃん殺害の犯人が名乗り出たときに、苫米地氏はすぐに「この男は犯人ではない」と言ったらしい。なぜなら記憶を呼び起こすときに違う方向を見てインタビューに答えていたから。苫米地氏的には、あの事件で疑わしかったのは母親だそうです(亡くなってしまいましたが)。

高橋淳二 (2007年04月20日 13:03)

「売上トップの一流セールスマンは、誠実そうで、おとなしく、こちらの話をよく聞いてくれるタイプ。人間には自分の話を聞いてもらいたい欲求がある、人間にとって一番つらいのは、自分の存在が無視された時。」セールスマンは、お客様に対峙しているときでさえ、お客様がそこにいないかのように話続ける人、多いですよね。
上記引用を読んで、今まで自分が人生のイベント的になるような買い物をしてきた際のセールスマンのイメージにピタッと重なり、思わず納得してしまいました。答えはお客様が持っていて、それを引き出す、ということなのでしょうか?

hedge (2007年07月31日 15:58)

hedgeさん、いつもコメントありがとうございます。

>>答えはお客様が持っていて、それを引き出す、ということなのでしょうか?

なるほど! そういうことなんですね。

この前先輩から、ある有名な広告クリエイターの方が「クライアントが課題を持っているからアイデアは絶対に枯渇しない」という話をしていたと聞き、「アイデアが枯れないなんてすごいなあ」と2人で感心していたのですが、hedgeさんのコメントを読んで理解が深まりました。

どうもありがとうございました!

高橋淳二 (2007年08月01日 23:16)

Trackbuck

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